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神戸地方裁判所 平成2年(ワ)1473号 判決 1992年2月14日

原告

松本忠幸

ほか二名

被告

長谷川文美

主文

一  被告は、原告松本忠幸に対し、金一四四万四九二九円、原告松本幸恵、同三村和美に対し、各金三二万九九六四円及び右各金員に対する平成元年八月二六日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告らの、その一を被告の、各負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

以下、「原告松本忠幸」を「原告忠幸」と、「原告松本幸恵」を「原告幸恵」と、「原告三村和美」を「原告和美」と、略称する。

第一請求

被告は、原告忠幸に対し、金一〇〇〇万円、原告幸恵、同和美に対し、各金四〇〇万円及び右各金員に対する平成元年八月二六日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原動機付自転車の運転者が普通乗用自動車と衝突して死亡したため、右死亡運転者の相続人らが、右普通乗用自動車の所有者兼運転者に対して自賠法三条に基づき損害賠償の請求をした事件である。

一  争いのない事実

1  別紙事故目録記載の交通事故(以下、本件事故という。)の発生。

2  被告の本件責任原因(被告車の所有者)の存在。

3  亡てい子(昭和一六年三月四日生)が、本件事故により脳挫傷等の傷害をうけ、右事故直後、徳州会病院(神戸市垂水区高丸一丁目所在)に緊急搬入され治療を受けたが、平成元年八月二五日午後〇時九分死亡した。

4  原告忠幸は、亡てい子の夫、原告幸恵、同和美は、亡てい子の子らである。

5  亡てい子の本件治療費は、金一六一万四九八〇円であつた。

6  損害の填補

合計金二六二五万円(自賠責保険金金二六二〇万円、被告からの見舞金金五万円。)。

二  争点

1(一)  亡てい子の本件損害の具体的内容

(ただし、前記治療費を除く。)

(二)  原告忠幸の本件損害の具体的内容

(ただし、葬儀費用。)

2  過失相殺の成否

(一) 被告の主張

本件交差点は、直線状の東西道路に北西から南東に通じる直線状の道路が斜めに交差する交差点であり、被告車は右東西道路を西から東に進行し、原告車は右斜めに交差する道路を北西から南東に向けて進行し、右両車両が右交差点内で衝突した(以下、右東西道路を被告車進行道路と、右斜めに交差した道路を原告車進行道路という。)。右交差点の北西角部分には、コンクリートのブロツク塀があり、被告車の方からは左前方、原告車の方からは右前方の各見通しが不良である。

このような道路状況から、原告車進行道路の右交差点入口には一時停止の標識と標示が設置されている。又、原告車進行道路は狭路であり、被告車進行道路は広路である。

亡てい子は、本件事故直前、原告車進行道路に右一時停止の標識及び標示があるのにこれにしたがわず、右狭路から広路である被告車進行道路に飛び出して来て、被告車と衝突したものである。

本件事故発生には、亡てい子の右重過失も寄与している。

よつて、亡てい子の右重過失は、同人の本件損害額を算定するに当たり斟酌すべきであり、その過失割合は、七〇パーセントが相当である。

(二) 原告らの主張

被告の抗弁事実及びその主張は全て争う。

亡てい子は、本件事故直前、殆ど止まつていたか、あるいは極めてゆつくりした速度で原告車を進行させていた。

その反面、被告は、本件事故直前、被告車を時速五〇~六〇キロメートルの速度で進行させ、しかも、自車前方、即ち本件事故現場である本件交差点の状況を全く注視していなかつた。

右事故は、被告の著しい義務違反によつて惹起されたものであり、亡てい子には、右事故発生に対する過失がない。

第三争点に対する判断

一  亡てい子の本件損害の具体的内容

1  治療費 金一六一万四九八〇円

亡てい子における本件受傷から死亡するまでの治療費が金一六一万四九八〇円であることは、当事者間に争いがない。

2  死亡による逸失利益 金一八六一万五五七二円

(一) 証拠(甲五ないし八、一〇、原告忠幸本人。)によると、次の各事実が、認められる。

(1) 亡てい子は、本件事故当時、四八歳の健康な女性で、原告忠幸の営む鶏肉小売商「鳥光商店」の営業に関与し、その傍ら、日曜日にはロイヤルミドリの着付け営業に、平日午後四時半頃から午後一一時頃までは株式会社ダイナツクが経営するトラレンボウサンノミヤの営業に、アルバイトとして就労し、右事故前三か月の収入は、「鳥光商店」分金二〇万円、ロイヤルミドリ分金五万六三五〇円、トラレンボウサンノミヤ分金二五万四七四五円、合計金五一万一〇九五円であつた。

したがつて、同人の右当時における収入の日額は、金五五五五円(円未満四捨五入。以下同じ。)となる。

51万1095円÷92≒5555円

(2) 亡てい子の就労可能年数は一九年と、同人の生活費控除率は三〇パーセントと、認めるのが相当である。

(二) 右認定各事実を基礎として、亡てい子の本件死亡による逸失利益の現価額を、ホフマン式計算方法にしたがつて算定すると、金一八六一万五五七二円(新ホフマン係数は、一三・一一六。)。

(5555円×365)×(1-0.3)×13.116≒1861万5572円

3  慰謝料 金二二〇〇万円

前記認定の本件事実関係に基づくと、亡てい子の本件慰謝料は、金二二〇〇万円と認めるのが相当である。

4  亡てい子の本件損害の合計額 金四二二三万〇五五二円

二  原告忠幸の本件損害の具体的内容

葬儀費用 金一一〇万円

証拠(甲九の一ないし九、原告忠幸本人。)によると、原告忠幸において亡てい子の葬儀を営み、その費用を支出したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係に立つ損害(以下、本件損害という。)としての葬儀費用は、金一一〇万円と認めるのが相当である。

三  原告らの相続

1  原告忠幸が亡てい子の夫、その余の原告らが亡てい子の子らであることは、当事者間に争いがない。

2  右事実によると、原告らは、亡てい子の相続人として、亡てい子の本件損害賠償請求権金四二二三万〇五五二円をその法定相続分(原告忠幸において二分の一、その余の原告らにおいて各四分の一。)にしたがい相続したというべきところ、原告らにおいて相続した右損害賠償請求権の金額は、次のとおりとなる。

原告忠幸分 金二一一一万五二七六円

その余の原告ら分 各金一〇五五万七六三八円

なお、原告忠幸には、別に本件葬儀費用として金一一〇万円の損害賠償請求権があるから、同人の本件損害賠償請求権の総額は、金二二二一万五二七六円となる。

四  過失相殺の成否

1  本件事故の発生は、当事者間に争いがない。

2  証拠(甲一、二)によれば、次の各事実が認められる。

本件交差点は、直線状の東西道路(車道幅員四・〇五メートル、北側路側帯〇・七メートル、南側路側帯〇・六五メートル。)に北西から南東に通じる直線状の道路(北西側道路の幅員四・三メートル、南東側道路の幅員三・八メートル。)が斜めに交差する交差点であり、右交差道路は、いずれも平坦なアスフアルト舗装路である。

右交差点の北西角部分には、コンクリートブロツク塀が構築されていて、右東西道路を東進する車両の運転者にとつては自車左前方の見通しが、右北西側道路を南東に向けて進行する車両の運転者にとつては自車右前方の見通しが、いずれも不良である。

右北西側道路の右交差点入口には、一時停止の標識及び標示(路上にとまれと大書されている。)が設定されており、本件事故当時、その視認性は十分であつた。

右交差点の北東角と南西角には、カーブミラーが設置されているが、右事故当時、右南西角のカーブミラーは、その角度が悪く視認性がなかつた。

右交差点は、住宅街に存在し、交通量は、車両が五分間に約一〇台、通行人は五分間に約五人である。

右交差点付近の速度制限は、時速三〇キロメートルである。

なお、本件事故当時の天候は晴、路面は乾燥していた。

3  被告は、本件過失相殺の抗弁において、亡てい子が、本件事故直前、原告車進行道路に前記のとおり一時停止の標識及び標示が存在するにもかかわらず、右標識及び標示にしたがわず、一時停止せずに原告車を運転し被告車進行道路に飛び出して来て、本件事故を惹起した旨主張している。

しかして、被告の右主張事実は、本件損害賠償請求権の反対効果発生事実となり得るから、その証明責任は、被告にあると解すべきところ、被告の右主張事実は、本件全証拠によるも、未だこれを認めるに至らない。

4(一)  ただ、証拠(甲一ないし四、被告本人。)によれば、次の各事実が認められる。

(1) 被告は、本件事故直前、被告車を時速四〇キロメートルに近い速度で運転し、被告車進行道路を東進していたが、右事故現場の西方約一四・一メートルの地点付近にさしかかつた際、自車前方の本件交差点付近、特に左右道路(原告車進行道路を含む。)を見たが、見える範囲内に人・車を認めなかつた。そこで、被告は、そのままの速度で被告車を進行させ右交差点内に進入し、被告車の車頭が右交差点北東角のカーブミラーから南西約二・六メートルの地点付近に至つた時、突然衝突音と衝撃を感取し同時に自車フロントガラス左側部分にヘルメツトを被つた亡てい子の頭を認め、右事故を惹起した。

(2) 原告車と被告車の本件事故による破損状況は、次のとおりである。

原告車

前かご曲損、前輪が左方に曲損、右前レツグシールド破損、右レバー擦過損、前照燈破損等。

被告車

フロントガラスひび割れ、左フロントフエンダー・ボンネツト凹・擦過痕、左前バンパー擦過痕、ルーフ擦過・払拭痕。

(二)(1)  右認定各事実を総合すると、本件事故は、被告における、左右の見通しの困難な交差点に進入するに際して求められる徐行し安全を確認する義務違反の過失によつて惹起されたものであるが、亡てい子の方にも、少なくとも原告車の右前方の安全を確認して自車を安全に運転すべき義務に違反した過失も寄与していると推認するのが相当である。

(2) そこで、亡てい子の右過失は、同人の本件損害額を算定するに当たり斟酌するのが相当であるところ、斟酌する亡てい子の右過失の割合は三五パーセント(したがつて、被告の右過失割合は六五パーセント。)と認めるのが相当である。

なお、原告らと亡てい子との身分関係は、前記のとおり争いがない故、亡てい子の右過失は、所謂「被害者側の過失」として、原告ら、特に原告忠幸の本件損害額を算定するに当たつても斟酌するのが相当である。

(3) 原告らの前記認定にかかる本件各損害額を、右認定の過失割合で所謂過失相殺すると、その後において、原告らが被告に請求し得る本件各損害額は、次のとおりとなる(年未満切捨て)。

原告忠幸 金一四四三万九九二九円

その余の原告ら 各金六八六万二四六四円

五  損害の填補

1  原告らが本件事故後本件損害に関し合計金二六二五万円の支払いを受けたことは、当事者間に争いがない。

2  そこで、右受領金を原告らの本件損害に対する填補として、原告らの右認定各損害からこれを控除すべきである。

しかして、右控除すべき填補額は、次のとおり認めるのが相当である。

原告忠幸分 金一三一二万五〇〇〇円

その余の原告ら分 各金六五六万二五〇〇円

3  右控除後の原告らの本件各損害額は、次のとおりとなる。

原告忠幸 金一三一万四九二九円

その余の原告ら 各金二九万九九六四円

六  弁護士費用

前記認定の本件全事実関係に基づくと、本件損害としての弁護士費用は、次のとおり認めるのが相当である。

原告忠幸分 金一三万円

その余の原告ら分 各金三万円

七  結論

以上の全認定説示に基づき、原告らは、被告に対し、本件損害として、原告忠幸において金一四四万四九二九円、原告幸恵、同和美において各金三二万九九六四円及び右各金員に対する本件事故後であることが当事者間に争いのない平成元年八月二六日(この点は、原告ら自身の主張に基づく。)から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める各権利を有するというべきである。

(裁判官 鳥飼英助)

事故目録

一 日時 平成元年八月一八日午後四時五〇分頃

二 場所 神戸市垂水区霞ケ丘六丁目二番六号市道

(交通整理の行われていない交差点内)

三 加害(被告)車 被告運転の普通乗用自動車

四 被害(原告)車 松本てい子運転の原動機付自転車

(以下、亡てい子という。)

五 事故の態様 被告車が、西方から東方に向け本件交差点内に進入したところ、北方から右交差点内に進入した原告車と衝突した。

以上

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